[1st impression]

○選考理由
ここいらで新しめの作品でも、ということで選びました。初見のインパクトも大きかったですし。

○感想

心構えする暇無しに唐突に表われる、ゆっくり時を刻む柱時計、カタカタとぎこちなく動く時計のシルエット、そして唐突に落ちて左右に揺れる懐中時計。これらの動きと小気味良さ、不気味さを併せ持つ針の音との同期によるインパクトがとにかく大きいですね。人目を惹くオブジェクトを印象強く見せることが巧みで、暗くて嫌でえげつない雰囲気がじんわり出ている、そこがとても魅力的。さらに、本編の随所に時計に匹敵するぐらい印象的なカットがまだまだ散りばめられていて、この作品は一発オチで終わらないことを証明してくれます。0:37の腕、0:40の不気味な集団、1:01の蝋燭、1:18のヒロイン、ラストに再び表われる時計(最初見たときゾっとした)といった具合に。この作品を見ているとき、ときに初めて見るときは、最後の最後まで、気が弛む瞬間が訪れないでしょう。ラストの吊るされた男も極めつけに不気味。不気味というのは、とあるものを見たときに、その形状に類似した、他の何か嫌な形状を思い起こしてしまうことにより引き起こされる感情ですが、この作品に出てくるオブジェクト群はまさにそれ。高度妄想スキル(ときに霊感とも言う)持ってる人なら蝋燭の炎に何かを見い出しちゃったりしちゃうのではないでしょうか。低彩度・高コントラストの絵よって統一された画面、各種ノイズ(トラックマット時計の後ろとか、0:25の背景に重なる文字や腕の残滓などと細かい芸が効いています)、0:53〜1:00の幻想的なカメラ移動なども、とても効果的に、陰鬱に作品を彩っています。そして何より、感情を一切込めず歌われる音階音、異様にゆったりとしたペースで低く刻まれるパーカッション、バックに微かに響く残響音によるコンビネーションが気色悪いBGMと映像との相性が抜群、これに尽きます。


過去の終の空を扱った諸作が暗い魅力を湛えているのは、原作で出てきた畸形のオブジェを印象的に見せることができていたからで。それらの作品と同じ方法論で"ダークさ"を演出し、トータル的に高い完成度で纏め上げられたこの作品は、最近の同系統の中では図抜けて印象に残りました。陰惨で美しくて嫌な後味が残る、そんな作品にきちんと仕上がっているかと。敢えてカルタグラを選ばなかったのもいいですね。