[1st impression]

見るべきポイントを列挙していけば、ノンストップで秒区切りに画面説明しなければいけないぐらいの高密度な作品です。この作品を見たことによって、カタハネをプレイしてみたという界隈外の人も結構居たとか。


この作品は、画像ソースの力によることが大きいです。シチュエーション、量ともに豊富で、背景もきちんと描き込まれたCGは、元ゲームから切り離して単体の静止画として見ても十分に観賞に耐えうるものです。けれども、ただ単に画面に羅列していくだけでは、これぐらいの出来にはならないと思います。このCGはどういう音楽と合わせれば、どういう雰囲気でまとめればより引き立つのかと考えられ、実践した結果なのでしょう。例えば、電車の場面で画面を動かせるとか、動作の後と前でどう画像が配置されるかちゃんと意識されたモーションとかが例として挙げられます。


その、モーションという技術に関しては定評のある氏の作品ですが、パンやティルト、クローズアップ等による画面の動かし方、持って行き方の冴えは今作が一番です。アングルや画角の違う画像を使って、文字に頼ることなく状況を説明することができています。口で言うのは簡単ですが、静止画M@Dで実行するとなるととても難しい。ヤマ場である0:41〜0:48は、ただただそういう見せ方があったのかと絶句するばかりでした。まさか最後にクローズアップ持ってくるなんて予想外です。他にも、サビでダイナミックな引きを使ったり、1:29からのシーンのような、徐々にシチュエーションがモーションによって説明される意外性は、複数回観賞を重ねても、というより重ねるごとに面白みを増してきました。


1:53のベースラインに合わせて点滅するキャラクターのクローズアップとか、最初は全然気付けませんでした。このシーンのような、テクいベースやスカ(でいいんでしたっけ?)の刻みが入った軽妙なリズムとの細かい同期がもっとあったらいいなと思いました。これはこれでシーンの分れが明確なので素晴らしいのですが。いつもは小さめの音量でM@Dムービーを再生している人も結構居ると思いますが、この音楽ソースではベースラインを追うと新たな発見があるかと思います。


2:19の観客を見せるところがワンクッションとして機能していたり、工夫が細かいです。こういう地味ながら効果的な演出の積み重ねが、この作品の完成度を上げている要因ではないかと考えます。何度も何度も再生して、そのたびに「エロゲーのCGって、余計な装飾がなくても綺麗だな」と感じました。とても綺麗で気持ちいい気分にさせてくれるムービーだと思います。

[2nd impression]


meimさんが言及しておられる照明効果に関してちょっと。レフ板のことか自然光なのか、というよりも完全ノンリニアな静止画M@Dの場合は「照明効果」とひとくくりにした方が何かと(語るのに)都合がいいですね。作業という点では同じことですから。と考えていて、この作品は結果として単光源ではなくなっている場面が何シーンかあって、その結果として短編映画の画面を連想させるのではないかと気付きました。1stではそんなこと一言も言ってませんが(笑) 被写体深度の表現と合わせてそういう見方をすると、控えめな表現の中に手の込んだ画面作りが見い出せます。


劇のことは気付かなくて、展開に緩急のあるよくある話なのか、としか。日常の中で劇の準備がシーンを作り出す、とか解釈しだすととても面白いですね。役者の内面・キャラクター・物語は、劇で演じられるものとは別のものだから、こうして歌のない間奏パートに持ってきたのかなと邪推とかが楽しいです。他にも色々出てくるでしょうが、1回書いたら感想が終わるわけではないですし、これからも楽しませて頂きます。