[1st impression]

タイトルのカケリとは、能における主演が激しく動くさまのことを言うそうです。緩急の落差の激しさが特徴的なこの作品の本質を一言でまとめていて、高いセンスを感じさせます。


この作品の突出したところは、その緩急を完全にコントロールの下に置いて作られていることでしょう。氏の作品は毎回とにかく展開が巧いのですが、今作は特にその長所が引き立ってます。視聴者に強い印象を与えるためには、どんな音楽で、どのようにまとめるのが最良か。その試行錯誤を徹底して行った作品であると私は思います。その結果、ストイックでソリッドな感触を得て、数ある月姫の作品としては異色なものとして仕上がっています。この月姫M@Dは、私が原作ファンであることを差し引いても、本当にかっこいい。0:16の声が入った瞬間にガツンと引き込まれ、0:38の月の存在感に驚き、ネロやロアや四季の登場にテンションが上がりまくる。0:51からの一連の志貴にフォーカスを当てたシーンのまとまりっぷりは異常。1:26の金属音・ラストの音とテキストの同期は、来ると分かっているのにいつ遭遇してもハっとします。何度見ても、この作品の男キャラの見せ方の巧さには猛烈な嫉妬を抱いてしまいます。何でこんなにカッコいいんだチクショー!


また、Krsnikと今作は対になる存在ではないか、と私は考えています。月姫のグラマーな部分、哀愁・耽美・恐怖・幻想といった、月姫という作品の根幹を成すファクター、KAKERIという作品の場において徹底的に排除された要素を詰め込んだ作品こそがKrsnikだと思うのです。だからこそ、原作に入れ込んだ人はKrsnikを支持する。けれども、Krsnikという舞台上では、月姫の冗長性もまた再現されています。公開当時はそこに非難が集中しました。Krsnikの問題点は、月姫という作品が抱える問題点でもあり、1ファンであるまっく〜氏はそれを魅力的に感じ、再現したのでしょう。ここらへん、M@Dが原作依存の極めて強い2次創作であるがゆえのねじれを感じます。ついでに、KAKERIの女性キャラが俺にはちっとも魅力的に感じない(あ、一部のアルクは女としてカウントしません)のは、グラマーさを徹底的に排除しているからだと思うのですが、いいのかなぁと思ったり。まぁ、TYPE-MOONですしね(笑)

[2nd impression]


もんぢゅさんの、映像を演出、という表現は的確ですね。タメや速く流すなどといった時間軸上の重み配分に関して、この作品は相当練られていますから。あと、KAKERIに関しては、本当に月姫未プレイの人が対象だったのか。meimさんが、「このムビ自体がどれだけデモとしての効果があるかってのはわからない」って突っ込まれてますが、当時M@D見ているような人が月姫に興味を持たなかったかは疑問です。むしろ、未プレイの人を対象とした「仮定」で作っていた、だからこそ無駄がないという感じがします。


meimさんは意見として練ろう、どう刃を入れれば面白い切り口になるか試行錯誤してるようで、ここら辺は見習わないといけませんね。「どうしてか」を煮詰めることに関して、私は「あー、○○っぽいからこじつけて」ってなるので。テンポという、語れば長くなりそうで憶測の混じる恐れが大いにある切り口に挑戦したのは良いですね。私ががスルーした、展開の大きさによる緊張感とそのブレイクをちゃんと書ききっています。拍子に関しては不勉強ゆえに分からないのですが、呼吸・心拍両者ではないかと私は考えてますが、どうでしょう? 色彩に関しても、月も微妙に青〜赤色にシフトするよなぁ、色と展開のメリハリは繋げるよなぁ、何で私ここ突っ込まなかったんだろうと凹んだり。月姫の白/黒・日常/非日常・青/赤・人間/非人間に関しては、はっきりと差異を出すことに関して疑問を持って(月姫に限らんのですが)いますが、ことこの作品に関しては、この切り口が有効だなぁと思いました。